Saint-Quentin-en-Yvelines | サンカンタン・アン・イブリーヌ | 0km |
Mortagne-au-Perche | モルターニュ・オ・ペルシュ | 140km |
Villaines-la-Juhel | ヴィレンヌ・ラ・ジュエル | 221km |
さあスタート!(19:39)
先導バイクに連れられて大声援の中気分はまるでプロチーム選手の様。
会場を抜けて外に出てもまだまだ沿道の拍手が続く、すごいすごい!
(photo by 水色KLEIN)
信号があるが交通規制をかけてくれているので止まることなくそのまま通過。
およそ30km/hをキープした先導バイクの直後をついていくには、登りはガンガン漕いで下りはブレーキかけていくことになるのでなかなかにキツい。隣にはさっきのLOOKブラザーズ、一緒に先頭で走って行く。
先導バイクがいなくなると若干ペースアップ、じわじわと先頭から距離が開いてしまうがそれでも30km/hは下回らないペースのまま進んで行くグループについていく。なるほど噂通り序盤はハイペースになるんだなと思いながらもこれは楽しい!
夕方といえど日暮れまでには時間があるので景色はよく見える。サンカンタンの街を抜けたら広々とした田園地帯。今までこんな広い土地を走ったことはない。きょろきょろしながらフランスを走っていることを今更ながら実感、これがPBPか。
(photo by 水色KLEIN)
一列に綺麗に並ぶ並木、並木自体は日本でもよくあるけどこうも周りに何もないと逆にとても印象に残る景色に映る。
チームでまとまって走っているのも少なくない。それも結構な人数でだ。
この赤と青のジャージにはコントロールにもなっている地名のLoudeacと書いてあるのでフランスのチームだ。
(photo by 水色KLEIN)
若干の向い風だが周りをうまく風除けに使わせてもらいながら走る。
青いタンデムが走ってきた。
登りになるとこちらが先行するが下りになるとガンガン漕いで追い越して行く。なんとも力強い走りに感心して見とれる。
日本のブルベ、いやどんなサイクルイベントでもタンデム自身走っているのを見かける事はほとんどないしね。
(※もっともタンデム=スペシャルバイクカテゴリのスタートは18時より前だったはずだから、何かの事情でスタート遅れたのだろう)
街に入ってきて数台自転車が止まっているなと思ったらそこにはGooglemapのストリートビューで見覚えのある店があった。Gambais(ガンベ)の街だ。
ということは35kmほど来ていることになる。スタートして1時間15分で35kmというペースは我ながら想像以上。
プチマルシェ、20:55
時間はあるのでここで何か補給を買って行くかと少し迷ったが結局素通りした。それはもしかしたら失敗だったかもしれない。
夜9時、そろそろ日没の時間。これからナイトランが始まる。
21:00
一旦離れて見えなくなっていた水色KLEINさんはペースを落として追いつくのを待ってくれていたのでこの辺りで再度合流していた。
・・・が、ペースについていけなくなり次第に離れてしまった。
21時を過ぎるとあっという間に夜になる。小グループの後ろに着いていくが少し間を空けて追突しない様気をつける。
夜道、21:42
町に入るとまだこの時間でも応援に出てくれている人がいる。そんなにみんな自転車が好きなのかと感激してしまう。
え?あの女の子はグレーのビキニ?!
あっちの兄ちゃんはセーター振り回して応援、ってすれ違い様に回してたセーターをぶち当ててきた!『ンなろう!』
危ねえなあ!酔っぱらいか!!
周囲にランドヌールの途切れることはなく、暗くなってもいろんなジャージが次から次へと現れる。暗さのせいか単独で走る人は少なく、仲間でなくても一緒になって走っているのが多い様だ。
ふと小集団の一人に目が止まる。顔つきは欧州系のすっきりした感じではなく濃いめのアジア系みたいだったけど、なんか妙なレーパン履いているぞ。いやあれは...目を凝らしてよく見たらどうやらレーパンを裏表反対に履いていてパッドが外に出ている。完全にお猿のおしり状態なんだが、もしかして尻痛対策でそうしているのだろうか?ということは2枚履き?幸い?パッドが濃いグレーなので目立たないのだが。
確かに1200kmの長丁場を生き抜くために様々な工夫をしていてそれらを見るのも面白い。常識に囚われていては進歩はない、のかもしれない。
町中を走る時はいいのだがそれを抜けて単調な一本道に出ると、22時を過ぎた頃だったか眠気が出てきてしまった。
ちょっと早いなぁ、なんとか収めないとと思っていると...
フッと数秒意識が飛んでいたのに気づく!ブルベ仲間で『マイクロスリープ』と呼んでいる現象で、これを2回続けて3回目が来た時には落車している、とK野氏が注意を促していたアレだ。
やばいやばい。
前に突っ込まないようによく見て走ろう。
ああ、今ちょうど前走者のリアタイヤのところからパヴェが始まっている。ハンドルを取られないようにしっかり持って通過するんだ...。
あそこからパヴェが始まっているぞ...。
・・・しかしその辺りにはパヴェはなく、またいつまで待ってもパヴェは始まらなかった。幻影を見ていたのだ。もはや1000km走った後かの様な深刻な眠気に支配されていることに気づきショックを受ける。
とにかく危険な状態なのでドラフティングを止めてスピードダウンし集団から離れ単独走行に切り替える。向い風を受けて途端にスピードは落ちてしまい、今着いていたグループの尾灯はすぐに視界から消えて行った。なんとこの序盤にしてひとりぼっちで回りに誰もいなくなってしまった!
眠気は更にその度合いを増し、まぶたを強制的にパチクリしたり口をパクパクモグモグさせたり腕を振り回してみたり立ち漕ぎを繰り返したりボトルの水を飲む時に口でブクブクいわせてみたりとなにか刺激になることをと色々やってみるがダメ、焼け石に水。それになんだか腹の調子も良くなさそうな感じで胃がしくしくしてきた。
GPSに表示されるスピードは15km/hをウロウロしている。平坦な道なのになんてスピードだ...。
これはもうダメダメ、農道が十字路になっているところで脇に逸れて停車。
自転車に跨がったまましばらくハンドルに突っ伏してじっとして目を瞑る。が、眠れるわけでもなし。
頭を上げてフロントバッグに入れてあるクロワッサンを食べ、お茶を飲む。
そしてゆっくり出発。少しよくなったかと思ったけど2kmも走らない内にすぐ元に戻り眠気がやってくる。
あっ、と思ってバランスを少し崩し路肩から落ちて土の地面を走る。あわてずに戻るんだ、と念じて再びアスファルトへ復帰。
『(大丈夫か)?』
とおそらくそういう意味の言葉が後ろからかかり
『OK、OK。』と答えるがそれがウソであることはよくわかっていた。全く『OK』ではない。
停められそうな場所でまた停車。水を飲んで、正露丸も飲んで出発。
この辺りで千葉ジャージの女性の方を見つけて挨拶してみたりする。その後は一時先行していったのだが...
すぐにまた停車。今度はのど飴だったか梅干しだったかを食べてみる。
ゆっくり走り出すが力が入らずペースは上げられない。幾つもの列車が通りそれらはさほどスピードがあるわけでなく25km/hも出てないので乗るのは簡単、そして乗れば楽に先へ進めるはずだがそれができない。できないというよりしてはいけない状況だ。
一人のろのろと進んで行く。
ふと、DNFということを考える。
いやしかし、まだ遅れてるわけじゃない。序盤稼いだ貯金はしっかり残っていて、GPSに設定してある通過時刻よりだいぶ先へ進んでいる。リタイアする理由じゃない。だいたいこんな序盤でリタイアしたらどのツラ下げて日本に帰れるか、もうブルベなんか走れないぞ。昨日の観光で疲れてアウトだなんていったい何しに来たんだ。
まだだ、まだまだ、まだまだ。
ボトルは今回二つ用意していてその一つは水、もう一つは持参した緑茶ティーバッグを入れて水出しのお茶にしてある。しばらくしたらその水を入れているボトルの方がほぼ空になった。お茶の方はまだ半分以上あるけど残り距離を考えるとセーブしていかねば辛いな、と思っていたら右手の明かりに人だかりが見える。ボランティアの給水サービスらしい。
これは助かった!
差し出してくれるカップの水を飲み干してそれから空のボトルを差し出してPETボトルから水を満タンにしてもらって
『めるしーぼく』。
Senonches(スノンシュ)付近の私設エイド、23:47
どうやら家の中から次々と水で満たされたPETボトルが出てきているので水道水を汲んでいるのかもしれないがこの際かまわない(水道水は飲めるけど合わない人も少なくないのでできるならミネラルウォーター推奨とのこと)。時刻はもうすぐ深夜0時になろうかというのにこうやって走っているランドヌールに水をふるまってくれているのだ。”よくやってるなぁ”走っているこっちの方が逆に感心してしまう。
とにかく次の補給まで水の心配だけは要らなくなって助かった。
これであとは大丈夫かというとそうは問屋が卸さない。すぐに眠気が襲ってくる。
再び停車、後半に取っておきたかったが今は非常事態なのでしかたがない。カフェインを多く含むとっておきのエナジージェルshotzを投入。
また千葉ジャージの女性に追いつかれて先へ行かれる。スタートで見かけたeiryさんとも前後していたのを憶えている。
この区間の停止をGPSログから拾って見ると...
距離 停止時刻(時:分) 停止時間(分:秒) 備考 74km 8/21 22:28 8:43 仮眠、パン 89km 23:18 1:33 95km 23:39 1:20 98km 23:47 1:02 私設エイド水補給 102km 8/22 0:01 1:05 107km 0:15 0:58 111km 0:29 1:51 119km 0:51 1:50
全くもって無駄な休止の連続、こんなひどい停車ぶりは過去にも例がない。日本でならこれくらいのタイミングで信号で止まることはあり得るが停車時間はもっと短い。ここにはそもそも信号が無く停車する場面がほとんどないから巡航速度がそのまま平均速度になるところだ。この45kmの間に停車時間だけでも20分近く、ペースダウンを考えると30〜40分のロスになっていた。
惨憺たる状況であるが、とにかく前へ、少しでも先へ。
教会、8/22 0:59
少し意識に余裕が出てきたのか、教会にカメラを向けてみた。ライトアップされた石壁が金色に輝いている。見とれて道なりに左に曲がるとクルマのクラクション。オフィシャルカーだった。左に曲がってそのまま左端へ寄ってしまい、うっかり日本の左側通行=逆走になっていたのだ、危ない危ない。
あわてて右側へ戻り、ペダルを漕ぎ直した。
結局shotzが効いたのかもしれない。眠気が落ち着いてこの後は無駄な停車をすることはなくなった。ただ右膝に少し違和感を感じ始めてきていたが、今はそもそもペースが落ちているのですぐにどうということはないだろう。
少し大きな街に辿り着いた。PBPの横断幕が見える、ここが補給ポイントのモルターニュ・オー・ペルシュか。やっと着いたと少し安心。
補給?、1:51
大勢のランドヌールが歩いているのが見えた。
ココジャナイ、1:53
待てよ!ああ、ここも過去の画像で見覚えがある。公式の補給ポイント直前にあるブラッスリー(レストラン)だ。もちろんここで休んでいってもいいのだが本来の補給ポイントはすぐそこのはず。
一応ぐるっと見渡してここに皆がいないことを確認して先へ。
到着、1:56
柵には立てかけられた自転車で一杯、なんとか隙間を見つけて置いて数人が立っている目の前のテントへ。
外のテント、2:02
メニュー、上は飲み物だけど最初にリストされてるのはビールか!炭酸水のペリエにヴェルサイユのコンビニで買っていたオランジーナにコカコーラ、下はサンドイッチメニュー。けど中はガランとしていてここで何か買えそうな雰囲気でもない。
建物の中に入って行くと、カウンターでそのサンドイッチみたいなのを売っているみたい。
軽食コーナー、2:03
上に飾られた絵には『ようこそ』と日本語も書かれている。パリ、ブレストへの道、そしてここモルターニュの丘、自転車の絵。
奥に大きな食堂があった。水色KLEINさんが待っていてくれた。
『もうあかん、今日はダメ。先に行って。』
と弱音を吐く。
レストラン
少し話をして、食事を取りに行く。間が悪く行列が長く伸びたところで並んだのでよけい時間を喰ってしまった。
要領を得ないままなんとなく云われるように食べ物を貰って、最後にレジで清算する。
食事、2:36
パスタとスープとパンとバナナ。食欲はあまりないけどここはしっかり摂っておかねばならない。
自分では気づかなかったが食べるスピードも普段に比べてかなり遅かったらしい。
携帯をチェックしてみると腹ポさんからCメールが入っている(こちらでの通信手段としてはCメールが最も手軽だった)。
1時間ほど早く到着しここには30分もいなかった様で1:30前に出発している。こちらが食事を終えて出発したのが3時近くだから1時間半以上先行していることになる。”先行している”という表現は適切ではない、自分が遅れているだけだ。
結局ここへは1時間3分の滞在で3:01出発。シミュレーションでは1時間20分滞在で2:55出発だがそれは出発を18:20としているのでスタート時間差で1時間20分あるから1時間14分の貯金がまだあることになってはいる。しかしテキパキとやれば同じ食事を取っていても45分ほどで済んでいたはずだ。この先走行ペースがシミュレーションより落ちるのは明らかなので貯金は当てに出来ずむしろ不安。
とにかく先へ進もう。ボトルに水を満たして再び待っていてくれた水色KLEINさんと夜の街へ走り出した。
町を過ぎて郊外へ出ると何もないだだっ広い暗闇。フロントライトに照らされる道路とバックライトで光っているGPSの画面、前走者の赤いテールライトだけの世界。星空を見上げる余裕などなかった。
教会、5:48
町に入ると必ず街灯があり教会のある中心部はより明るく照らされている。もう誰も外にいないけど建物の横を通り抜けるときにはその灯りのおかげでホッと落ち着く。
ペースは上がらないがさっきみたいに止まり止まり行くことはなくなってきた。
街灯に照らされた町でリカンベントに追いついた。
リカンベントはスペシャルバイクなので90時間組より先にスタートしているからそれに追いついたのは悪くないペースで走れているのか?いやそうではなくてここで追いつかれているアチラの方が苦戦しているはずではなかろうか。
夜明け前、6:29
うっすらと空の色がついてきた頃にやっと最初のPCであるヴィレンヌ・ラ・ジュエルに到着した。さっきより大勢の人がいてやたら賑やか。選手でない人がたくさんいる。
到着、6:42
まずはブルベカードにチェックを入れて貰わなければ。
『CONTROLE』と書かれた案内に従って建物の中に入る。マットの上を歩くとピーッと音がしてそこでタイムが検知されたらしいことがわかる。机に緑色Tシャツのボランティアの係員がいて、そこにブルベカードを提示して判を貰う。何かサインしている様だがそれは現在時刻の様だ。
コントロール、6:57
ここはスムースに済んで前回のPBPレポートにあった様な混雑は全くなかった。今回導入したオートチェックのおかげというよりも、スタンプを押す係員を増員したせいではないかと思う。
軽食コーナー
さっきしっかり食べたのが効いてまだあまり腹は減ってないので軽めにクロワッサンとパンオショコラ、それにチーズケーキで朝食。コーヒーを頼むと洋風椀?いやスープボウルみたいな容器に入ってきた。
ここでの食事、7:04
食べたらトイレに。
超長距離ライドで問題になるのが睡眠の取り方と、もう一つ重要なのがあまり語られない排便のこと。
この二つは自分にとって重要で、また弱点でもある。排便については下痢を起こさないことが一番と考えていて、すぐに下しやすい自分の腹具合には特に気をつけるようにしていた。
なのでスタート前日調子が悪かった時にも正露丸を飲んで下痢を予防していた。それはその時は効果があったみたいだ。
ここでトイレに入ったときに便はしっかり出た、それは良かったのだが出す時にキッと痛みが走った。便秘とまではいかないが前日の正露丸が効いたか固かった様だ。
脂汗を流しつつもなんとか我慢してやっつけることはできた。
で、おしりを拭いてみると、
赤 い
なんじゃ!こりゃあ!
拭き直してもしばらく押さえていても出血は治まらない。どうやら少し中の方が切れている様だ・・・
症状としてはひどくはないものの、15年振りくらいに出てきたいわゆる切れ痔だろう。
さてどうする?軟膏でも持っていたらと思うがそれはなし。シャーミークリーム?まさか!。
inainaさんがいればなあ。何か手立てを持っている可能性大だけど、スタート時刻が1時間40分早かったはずだから今ここにいるはずもない。
できることはティッシュをはさんでおくだけ...
(サドルに座る分には痛みもないのは幸いであった)
すっきりするどころか逆に疲れを増して呆然としつつトイレから出て、それでもこれから走るためにレストランに行って水を買ってボトルに足しておく。
レストラン、7:39
先に到着して仮眠がてら長い時間待っていてくれていた腹ポさん&べりさん、それに水色KLEINさんとも合流して、『また膝が調子悪そうでペース上がらない』と愚痴をこぼしつつ実際それは本当のことなのだが半ばそれでごまかしつつ、夜が明けたヴィレンヌ・ラ・ジュエルを出発する。
PBPを取材に来ているカメラマン、べりさんのお兄さん:Teramuraさんがゲート前で構えてくれているので並んで記念撮影。
出口にて、7:53
ここでの滞在は6:44→7:53。シミュレーションでは6:56→8:06になっているのでスタート時間の差の分だけの余裕はある、時間的には。
カラダ的にはいろいろマズいことになっている。眠気でフラフラだったくせに仮眠はここまで5分(実質0分)。
(photo by Hiraku Teramura)
残り距離はあと1010km。PBPは始まったばかりだというのに...