※本編はエッセイ風に書いてみました。

ロードレーサーという自転車はつくづく大した乗り物だと思える。 サドルにまたがってペダルを漕げば、道が続く限りどこまででも行ける。

さあ行け!ママヤマ。僕を乗せて日本海まで、走れママヤマ。

▽序章 - Un prologue
ブルベ-BREVETとはフランス語で認定を意味する言葉、ACPというフランスのボランティア組織が統括している世界各国で行われている自転車長距離ラン競技の名称であり、それを完走すると認定が下りるというものである。
一昨年からこれに参加し、昨年は200〜600キロのブルベを完走した。
指定されたコースを指定時間内に走るブルベは、おおよそ15km/h相当の制限時間となっている。 200キロは13.5時間、300キロだと20時間。 15km/hというとママチャリが走っている速度で決して速いわけではなくむしろ遅い。
ところがこれはトータルの時間の話であって、信号停止や休憩/食事時間はもちろん、パンク修理といったトラブル対処の時間も含んでのこと。 それらを勘案しても15km/hという平均速度なら、ロードに乗っている人ならどうということはないレベルである。300キロの20時間までならば。 400キロは27時間、600キロは40時間制限。割合は同じながらこの辺りから時間配分の考え方を変える必要が出てくる。つまり休憩時間が単なる休憩だけでは済まず、そこに睡眠という要素を加えなければならなくなるのである。

昨年、近畿の600キロを完走した時は天候に恵まれてほぼ予定通りに走り切ることができた。 運が良かった。 そう言ってもいい。 自信はついた反面、「本当に走ったのか」という幻だったような不確かな感覚もある。
今年最初の600kmブルベのある名古屋のそれは山岳コースだ。

090425brmprf3

見た目以上に細かいアップダウンで苦しめられた近畿の600のコースよりどう見ても過酷。
これを走りきれるのであろうか?否、これを走り切ったらどうだろう。600キロという距離感をもっと実感を持ってつかめるのではないか。

名古屋で300キロを走ったあとで、600にエントリーを済ませた。

▽準備 - Preparations
ママヤマの装備は先週「せとうちブルべ」で200キロ走っている状態からハブ軸にライトEL530を追加し他のライトの電池を交換、それにチェーンのオイルアップ、それに加えてGPSとサイコンはラップで覆って雨対策を施すことにする。
問題はウエア。 この時期なら日中は半袖がいいくらいの陽気で夜は冷え対策を追加(アームウォーマ、ウィンドブレーカ等)する程度でいけるはずなのだが天気予報は雨。
カッパを着るから中は一段薄手にする?そもそもカッパ自体いつもの百均で大丈夫か?
迷った挙げ句、ドロップバッグには薄手長袖ジャージと半袖ジャージを入れ、冬ジャージと春秋長袖ジャージを持参して現地で決めることにした。 氷点下までは下がらないだろうから、下はレーパン+CW-Xタイツで大丈夫。靴下は防水のSEALSKINS。
グローブも冬用と指切りと2種類用意した。
カッパは、結局行きがけに岡山の好日山荘に寄り、前日にチェックしていたモンベルのゴアテックスのレインフィールダーwomen'sを購入した。値段は22800円だが一つだけLサイズが19800円であった(値上がり前の品だそうだ)のでラッキー。

補給食にはパワーバー2本、ライトミールブロック1箱分(+ドロップバッグにも1箱分)、梅干し。ボトルはPOLAR大を一本。

宅急便で宿に送るドロップバッグには上記の品の他、替え電池や予備チューブ、追加補給食にDNFした場合の着替えを入れた。輪行袋はドロップバッグにではなくフロントバッグに入れて常時携帯=いつでもリタイアできる様に。

今回の遠征プランは、 せっかくのETC休日特別割引を活かす為に金曜日に出発して土曜日になってから高速を下りる様、途中の多賀SAのハイウェイホテルを予約しておいた。そこからスタート地点まで1時間強。起床からの時間をクルマの運転という形ではあるが取ることでウォーミングアップ代わりになるのではないか。
折り返し地点付近には仮眠推奨としてスーパー銭湯施設が紹介されている。が、営業が24時までだ。 2時くらいまで仮眠を取りたいと思うとそこは無理。24時間営業の健康ランドは片道6キロほど離れているのでこれもロスが大きい。そこで思い切って宿をとることにした。ちょうどルートから1キロも離れないところに24時間営業の食堂併設の宿「職人の宿あすか食堂」が見つかった。一泊3800円と値段も手頃。そこにドロップバッグも送りつけておくことにした。

忘れ物、 忘れていたわけではないが心拍計、朝探すと心拍計本体が見当たらない。どうやら嫁さんが腕時計代わりに先に持って出たらしい。しかたなく今回は心拍モニターなしで走ることにする。ペースコントロールに不安が残る。

▽スタート前 - C'est avant depart
金曜日、GPSに登録するルート作成に手間取り自宅出発は午後3時。昼食もまだだったので中庄のとも作で生しょうゆうどんとおでんを。すぐに出てくるだろうと思ったらこの時間で茹で置きがないらしくしばらく待たされて、釜揚げすぐのうどんが出てきた。

090424udon

前述の通りカッパ購入のため岡山のビブレ内の好日山荘に寄り、岡山ICから山陽道。 途中三木SAで休憩してから多賀SAに到着した時は午後8時を回っていた。

090424taga

ホテルは下り線のSAなので陸橋を渡ってそちらに移動しチェックイン、レストランで近江牛ハンバーグの夕食。

090424hamburg

風呂で一汗流して目覚ましをセットして就寝。

090424hotel

2時45分に起き出して着替えて昨日三木SAで買っておいたパンをかじって出発。
豊田東ICを降りてスタート地点の柳ヶ瀬公園駐車場に4時過20分頃到着、外に出てみて気温の感じからして冬ジャージに着替える。
先月伊吹山で会った水色KLEINさんに声をかけて話をしていたら腹ポさん&べりーさん到着。べりーさん体調大丈夫なのか?来たからには大丈夫なんだろうけどこの一週間乗れていないのでかなり不安そうだ。まもなく雨が落ちてきたので早速買ったばかりのカッパを着込む。
水色KLEINさんはブルーのカッパ、デジカメのフラッシュで雨粒が光って美しい塗装のKLEINとお似合いな画像になった。

090425klein1

ブリーフィングを聞いて車検を済ませているうちに出発していく参加者が。もう5時になっていた。 慌てず装備を確認し、おっとタイヤのエアを入れるのを忘れているので前後7.5bar入れておく。周りは既に明るくなっていた。

090425klein2

準備が整って駐車場から漕ぎ出したのは5:17だった。ここで遅れを出しても挽回はできるけど、今日のコンディションではあまりおもしろくない。

▽PC1、冷たい雨 - Pluie froide
さぁ、これから600キロのかなたへ旅立ち。頼むぞママヤマ!

昨年の600の時はそんな期待に満ちた気持ちだったが、今回は目の前の景色そのもののブルーでグレーな沈んだ気持ち。でもそんな負の気持ちでもなぜペダルを漕ぎ出すのか。水しぶきをあげてママヤマは走り始める。

ゆるゆると25km/hもない速度で走っていくが、間もなく後ろにいたはずの腹ポさんとべりーさんがいないのに気づく。速度を上げずにそのまま追いつくのを待ったがその気配なし。体調に不安のあったべりーさん、大事を取ってDNFしたか? グレーのトーンは更に暗くなってケイデンスは上がらない。水色KLEINさんと淡々と先に進む。

トヨタの街を抜けていくとだんだん勾配がついてくるようになった。川沿いのいい雰囲気の道に、晴れていたらさぞ気分いいことだろうとつぶやく。
相変わらず冷たい雨が降りしきるが、この頃からやたら暑くなってきた。ゴアのカッパの保温性の良さ?冬ジャージが失敗?そうではなくて出発前に塗っていたウォーミングアップオイル:スポーツバルム(レッド1)が効いてきたのだ。おかげで汗が額を伝うほどになってしまった。しばらく後オイルが汗で流れるとその温感は引いて、冬ジャージで正解だったと思うことになる。

地元の水色KLEINさんに牽いてもらっていいペースを刻み、遅れ分をどんどん取り戻す。

090425komainu (7:35)

世界最大というこまいぬをチラっと見て通り過ぎ、更に先へ進む。
補給はPC1までの間に一回にしようということで、中間地点のサークルK瑞浪陶町店に立寄り。(7:38)

090425pc1

画像中央の赤い上着の方はPBPにも出られた(但し未完走)ベテランの人。「こういう天候でも走りきれないとPBPは完走できない」という言葉が重い。自分たちはそこまで見据えてはいない。大きな目標を持っている人はそれだけの強さがある。正直PBP=1200キロを目標にするのは怖くてできない。今の目標は次のPC1に辿り着くこと、ただそれだけ。

補給を終えて走り出す。気温は上がらずスタート時と変わらず冷たい雨。
グローブも既に水浸しで、時々ハンドルから手を離してグッと握って水を絞る。そうすると手のひら部分は水がなくなるけど、手の甲の側にしみていた水が手のひらの方へ伝わってくるのがわかる。
足の方はまだまだ何ともない。防水靴下はダテじゃない。そして急遽購入したカッパ、これは大正解だった。中が濡れていないし、全く蒸れないわけではないが蒸れている感覚がほとんどなく不快感が非常に低い。ウォームアップオイルが引いても寒さにふるえることはなかった。

アップダウンがきついというより峠をいくつも越えて行く感じ。雨はなくてもハードなコースだ。8〜9%の坂を、まだフロントセンター39Tでなんとか登る。 下りはブレーキの効きを確かめつつ慎重に減速して下りる。 道路の気温表示は12℃から10℃、9℃と徐々に下がっていく。いつの季節なんだと愚痴をこぼしながらそれでも先へママヤマは進んで行く。

090425st0955 まもなくPC1(スタッフ撮影:9:55)

サークルKの看板が見えた。あそこがPC1:サークルK中津川千旦林店。やっと着いた。スタッフがカメラを向けているのが見える。

090425st0957(スタッフ撮影:9:57)

他にも参加者が2、3人いるようだ。
トイレとレシートチェックの買い物を済ませ、店外で補給をしていると1名が「ここでリタイアします」と宣言。その表情にはほっとした様な微笑みが浮かんでいた。この苛酷な状況から逃れられる安堵感からであろう、確かにそれは賢明な判断と言えた。その人は来た道を折り返してスタート地点まで戻るという。
ブルベはその時々のコンディションを的確に判断し上手にコントロールすることが重要だ。途中リタイアするということは必ずしもあきらめる、投げ出すということではない。判断を誤るとそれは自らの生命の危険が近づいてくることにもなる。リタイアする方が勇気があって、走り続ける方はむしろ小心者なのかもしれないな。
しかしながら目の前でリタイア宣言されるとこちらのモチベーションは引き下げられる。「では行きますか」とあきらめたような口調でつぶやき、けれどまだ使い込んではいない体力を脚に込めてパチンとクリートを嵌めて漕ぎ出せば、ママヤマはまだ先へ進んで行く。水色KLEINさんと一緒に、冷たい雨の先へ。

▽PC2,道草 - Herbe par le bord de la route
出発の遅れ17分は既に挽回していたので、それは救いだ。雨はいわゆる本降りの状態だがそれがひどくなることなくここまで続いているので、次第に馴れてきている。

水色KLEINさんとは名古屋300の時に初めて会って、その時スタートから20キロほどの間でくっついたり離れたりしながら走っただけ。伊吹山ヒルクライムでも会ったがクラスが違うのでコースで会うことはなかった。ランデブー走行は今日が初めてなのに、よくここまでペースを合わせてついてきてくれると感謝。今日は雨装備でしっかりマッドガードを装着しているので、後ろを入っていても泥はねが少ないのもありがたい。

次は道の駅でお昼にしましょうと、それのみを目標に走る。およそ25キロ先だ。 雨と共に風も吹いている。予報では南風だったので追い風の筈だがむしろ向い風になっている。平坦路でも20km/hを切ることがしばしば。我慢の走行が続く。そして峠にさしかかる。塞の神トンネルに至る坂道。

090425st1131(スタッフ撮影)

道路の駐車スペースに一台クルマが停まっていて、人がひとりいるのが見える。スタッフだ。

090425st1131b(スタッフ撮影:11:31)

いつくるかわからない参加者をひたすら待つのは走っている参加者とはまた違う相当な労苦である。それに応えるためにも手を挙げてあいさつ。そうすると不思議とこちらも心に力が湧いてくる。
まもなく長いトンネルを抜ける。雨の日はトンネルの中がとても快適。

道の駅を一つパスしてさらに10キロほど、道の駅加子母に到着。(11:40)
食堂が見えたので(竹よし、だったかな?)その前に自転車を停めてカッパを脱ぐ。 店内に入ると「自転車ですか!」とびっくりされて、濡れた顔を拭くタオルを出してくれた。これはとてもありがたい。ふわっとしたタオルの感触がなんとも心地よく、顔を拭いたそのあとを見るとポツポツと砂がいっぱい。巻き上げた砂をかぶっているのだな。 おすすめらしい朴葉味噌焼き定食を頼む。肉らしいものがなくてボリューム不足だが温かい食事は何よりだ。

090425take1201(12:01)

それよりこちらのご主人はロードに乗っているということで、自転車話に花が咲く。豊田から来た、富山まで行って帰るというとさすがに信じられないといった感じ。「気をつけて」と店の外にまで出てきて見送ってくれた。
食事休憩としてはいささか長く時間を取り過ぎたが、お腹と心を満たしてくれたおいしいお昼ご飯だった。できれば帰りにもここに寄れる余裕があればいいな、とふと思って可笑しくなった。ここまでいつリタイアするかとそれが頭から離れなかったのに折り返して戻ることを考えるなんて、と。そう、先はまだ長く、途中でリタイアするかもしれないのはここまでと同じなのだ。

店のご主人の言った通りにしばらく登りに入る。”地元の中学生は下で少し休んでから自転車押して歩くのよ”と奥さんも言っていた。前を行く水色KLEINさんが左手を指差す。その通り中学生が自転車を押して歩いていた。
舞台峠を越えて下ると下呂温泉。温泉街の湯煙を抜けて川沿いの道をアップダウンをこなしつつ進む。 対岸はR41が走っている。こちら側は時折民家が連なるくらい、そろそろ補給のタイミングかなというところだがコンビニはない。いちおうチェックしていたスーパー(A-COOP)はあったが通過。小さな駄菓子屋の前にバイクが立てかけてある、あれはさっきの赤い上着の人だ。 他に適当なところがないか探しながら走り続けるが見当たらず、結局道の駅なぎさまでおよそ50キロ走り続けた。(14:48)
売店をうろうろして焼きたてパンコーナーを見つけてブルーベリークリームチーズのデニッシュを。

090425pan1457(14:57)
ベンチに腰掛けてパンを食べてひといき。少しゆっくりと休んで「次は峠が一つあります」ということでその宮峠へ向かう。
ここも距離のある峠道で次第に水色KLEINさんの姿が離れて行く。登りでは無理をしないで少しずつ進もう。小学校の先生が言っていた「ゆっくり急げ」という言葉を思い出しながら。ここではもうフロントはインナーに落とし、30Tx23Tで登って行く。
ペダルを漕いでいればいつかは頂上に辿り着く。およそ800mの宮峠を越えてダウンヒル、やがて街が見えて来たらそこは高山市。

「ちょっと寄道していいですか?」

090425train1610(16:10)

時間に余裕があるのがわかっていたので、PC2目前にしてルートを少しだけ外れてTRAIN BLEU(トランブルー)というパン屋へ向かった。英語でいうとBLUE TRAINというその店名は、”長い道のりを、目的地に向かってコツコツとひたすら走り続けてゆく、という願いを込めてつけました。”とサイトに記されている。まさに我らにふさわしいではないか!
雨の降る中若い女性中心に結構込み合っている人気のパン屋、いろんな種類のパンやタルトが並んでいてさすがに目移りする。幾つか適当に選んで購入。外で待っていてくれた水色KLEINさんにはリクエストのあんぱんを。
ルートに復帰してほどなくPC2ローソン高山下岡本店へ到着。(16:39)

090425pc21639

ここまで来た、200キロ。ここまで来たなら、あと一つ大きな峠を越えたら70キロほど下り基調で富山まで行ける。次のPC3までならリタイアの線はだいぶ薄くなってきた。

水色KLEINさんがバナナを買ってくれたので、PC2に一緒に到着したsix13の方と一緒にお裾分けをもらった。

090425pc21640

さぁ元気が出たところで今コース最高地点の峠に挑むとしよう。

▽PC3,再会 - Un reencounter
six13の方と共に3人で走り出す。この先峠の手前にあるデイリーストアの後は補給ポイントがしばらくないという事前情報で、「ここがそのデイリーか?」と気にしながら進む。実際にはデイリーが3店ほどあって、登坂にかかる手前の店がその最終補給推奨ポイントだった。 そこでは補給せず、そのデイリーからすぐのところで早い夕食にした。時間的に余裕もある。
予め腹ポさんが調べてくれていたところ、「焼肉 かをる」。(17:31)

090425kaoru1810

カッパを脱いで3人で店内へ入り、ロース定食を3つ注文。

090425kaoru1745

きれいに脂の入った飛騨牛!

090425kaoru1748

とても柔らかくジューシーで旨い。 量は少なめだがこの肉で1200円は安い、安すぎる。 酷使している筋肉も喜ぶだろう。

十二分に満足して峠へ向かう元気も出る。店の前からちょうど登坂が始まる様だ。距離が長いので勾配はそれほどでもなさそう。
しばらく走っていると、 「追いついた!」 横に腹ポさんがやってきた!リタイアしてなかったんだ!べりーさんは? 後ろからやってきているのが見えた。ここまで来られたということは復調したということだろう、良かった良かった。
聞くとスタート直後ツール缶を忘れて取りに戻って時間をロスしたらしい。その為間の休憩を削ってここまで来たと。 思わぬ再会に気分は盛り上がる。
レースならしかしこれは再会じゃなくて”吸収”だ(笑)。

夕暮れの雨降る峠道を連なって登って行く。通り過ぎるクルマから見ればこの隊列はさぞ奇異に映るだろう。時折クラクションを軽く鳴らして通り過ぎるクルマもいる。
だんだんと登るにつれてペースを保てなくなり、後方へちぎれていく。 そろそろ腰がやばくなってきた。腰痛が出始めた。勾配はきつくないけどインナーローにギアを落としてゆっくり登坂しつつ、腰に負担のかからない姿勢を模索する。今日はサドルのぐっと後ろに座り上ハン持って腰を立てるイメージで漕ぐのが良さそうだ。心拍はおそらく140を切るかという平地と同じレベルまで負荷を下げてゆっくりと登る。本来ならギア2枚上でも行けるはずだけどここは我慢のしどころ。 皆に待っててもらってすごう峠896mを通過、下りは道案内よろしく先行していく。

そのままPC3に下り切るには距離があるので、途中道の駅細入で休憩。(20:14)

090425hoso2014

温かい缶コーヒーを飲んでひといき。もうPC3までは大丈夫。その後のことは仮眠後に考えよう。

090425hoso2025 べりーさん、寒そう。

川沿いのスノーシェルターが続く道を通り過ぎ、久々に街中に出ると雨も小降りに。信号で止まりつつ進んで前方に見慣れないコンビニの看板が見えたらそこがPC3セーブオン高岡金屋店。(22:12)

090425pc32215

とにもかくにもここまで来た。 ゴールしたような気分さえある。互いの健闘を讃えつつ、ここからはそれぞれの仮眠休憩の場所へ移動となった。明日、また会えたらよろしくと。

▽PC4,制限時間 - Une limite du temps
PC3を出発してルート通り海の方へ向かう。GPSのルート通りクリアしたのだがここで痛恨のミス! せっかく海王丸パークに来たのに海王丸を見損ねてしまった。全くチェックしていなかったので素通り。 橋の上から夜の富山湾を撮るには撮ったが、逃がした魚は大きい。

090425sea2237

この時は海王丸のことはすっかり頭になかったので、今回の目的「To see the sea」はクリアしたつもりで復路に入った。
すぐに今夜の宿泊、もとい、仮眠の宿に到着。「職人の宿あすか食堂」である。今回の行程でクリティカルポイントは仮眠後のPC4でここのチェックタイムが8:04、それに間に合う様にできるだけ長く仮眠を取りたい、その為にルートに近い地点にオカネを投じて宿をあえて予約したわけだ。
チェックインして届けてあったドロップバッグを受け取り、部屋に入ってウエアを脱いで浴衣に着替えて風呂へ。小さい銭湯といった風呂なので浴槽は十分大きくゆったり体を伸ばせるのがいい。明日のことは考えず、今日一日よくここまで来れたと、ママヤマのチカラに感心する。

090425pan2311(23:11)

部屋に戻ってトランブルーのデニッシュをつまみ、目覚まし時計をセットする。
2時まで寝るのが当初の予定であったが、峠の登りでシミュレーションより遅い走りになっていたので仮眠後の長い登りはまた遅れる可能性大とみて、15分早めて1時45分にセットした。 布団に入ってもすぐには眠られない。が、仮眠とはいえ布団に入っているのはシアワセだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

目覚ましより数分早く目覚める。何か夢を見たようなので少しは寝られたか。
さっさと歯を磨いて着替えて荷物をまとめてチェックアウト。
外に出ると雨はやんでいる様子なのでカッパはたたんでサドルバッグへ押し込む。
さぁ後半戦の始まりだ、行くぞママヤマ。出発は2:07、予定より10分ばかり早い。

090426lw0229

まずは小杉駅前のローソンでドロップバッグの送付手続きを済ませ、朝食にサンドイッチを買って食べる。(2:20)

しばらく街中の道を走ったらいよいよ長い長い登りにかかる。
休んだおかげで一旦腰痛は治まっているから、それが出てこないように抑えて登る。それでもシミュレーションのペースは保っていてむしろ僅かプラスが出ている。
「よし、この調子で...いやいやむしろ貯金を使ってしまうようにペースを落として進もう」

往路でも寄った道の駅細入が見えて来た。お、誰かいる。

090426hoso0403

温かい飲み物を飲んでトイレに行って、”お先に”とその二人、まみぞーさん夫妻に告げて出発。もう余裕ないけど大丈夫かな?
辺りはだんだん明るくなってきて走りやすくなってくると共に、それは制限時間が近づいていることにもつながっている。 左手に賑やかな神岡の街が見えて来た。もうもうと白い湯気を上げている光景に見とれる。 ちょいとペダルを止めてパチリ、今回のベストショット。

090426kamioka0515

写真を撮り終えたところで雨が落ちて来た。ある意味停車していて好都合、早速カッパを出して着込む。すっかり明るくなってもうライトは不要になって、昨日と同じ雨の中の登坂になった。

まだか、まだかとGPSの画面を睨みながら上を目指す。シミュレーションのペースより遅くなり、ここまでの貯金を減らしながら登っていく。 やっと頂上896mすごう峠に到達した。(6:25)

090426sugo0625

090426sugo06264

ここの気温は4℃。これからの下りは相当寒いことだろう。路肩に停めてあったクルマにいたのがは尾澤代表、どうもご苦労様です。二言三言会話をかわしたはずだが何を言ったか憶えていない。

雨のダウンヒルなので時間かせぎできるほどは飛ばせない。ママヤマをあまり傾けなくても曲がれるスピードでコーナーを慎重にクリアしていく。
体力的には回復する区間だがだんだん睡魔が襲ってくるようになった。まだまぶたが降りてくるほどではないがこれはよくない。

行きに寄った「焼肉かをる」を通り過ぎてすぐのデイリーに立寄り、眠気冷ましに「眠眠打破」と唐揚げを補給した。しかし眠眠打破は効き始めるまではしばらくタイムラグがあるのでしばらく我慢の走行を強いらる。そういえば過去に「眠眠打破」を摂ったのは近畿のブルベ400の時以来、あの時も睡魔と戦っていた。

時間も時間だから余りにトロトロ走っていくわけにも行かないが、かといってペースを上げられるわけでもない。それでもクローズ時間には間に合う算段で漕ぎ続け、昨日のPC2であるローソンが今日のPC4、7:51に到着した。GPSのシミュレーションタイムちょうどである。
ここで昨日の面々と再会、もうとっくに先に行ってると思っていたので意外、それに嬉しい。他の参加者も休憩している。
あれからどうしたと話ながら、道の駅で別れた二人はどうしているだろうと気にしていたら8時を回ってから二人が滑り込んで来た!スタッフにせかされてチェックのための買い物を急いでいる。なんと1分前でセーフ。なんと素晴らしい!

090426pc30805

他人事ながら安心したのでゆっくり座って朝からカップラーメン。ここでは朝食を摂ることにしていて30分予定組んであるから大丈夫。
きっちり30分費やして休憩して出発。昨夜と同様4名で再スタートだ。
ここまで400キロ、あと200キロある。雨は相変わらず降っていて昨日と天候状況は大差ない。
でも大きく変わったのはリタイアするかもという空気がなくなったこと。来た道を折り返すだけではあるが昨日とは違う走り、それは二人より四人。

▽PC5,睡魔と腰痛 - Fatigue et lumbago
雨は降り続いているがもうあまり気になることはなくなっている。麻痺していると言ってもいいかもしれない。

まもなく次の峠、宮峠にさしかかる。
ペースを上げているわけではないのに3人に遅れてしまう。往路より勾配がついているせいか、また腰痛が顔を出し始めたからだ。昨日楽だったポジションでゆっくり負荷をかけずに登っていると、今度は睡魔が襲ってくる。なんと登りで眠くなるとは予想外。チカラを入れると目は覚めるだろうが腰にキテしまう。腰をいたわるとまぶたが下がってくるというイタチごっこにさいなまれつつ、なんとか峠に到達。

下りはなぜか眠気はこない。神経をとがらせているからか。

峠を降りて平坦区間になるとまた眠気が出てくる。
たまらず道の駅なぎさに飛び込み、先にそこへ来ていた水色KLEINさんに「ちょっと仮眠します」と告げて休憩室へ。(9:40-53)
休憩室の畳にごろんと横になってしばし目を瞑る。すっぱり眠れるわけではないが一瞬でも眠っていただろうか。
10分ばかしの仮眠で少し復活して先を急ぐ。ほんの少しだけペースアップ。

おっとR41を行き過ぎてミスコースしている。対岸を走らなければならないところ。GPSを見て橋があるところまで少し戻って本来のルートに復帰する。

飛騨川を渡る橋の上で雨の風情も悪くないなと写真に。(10:28)

090426kawa1028

090426kawa10282

下呂温泉まではコンビニらしいものはない。A-COOPを過ぎたところで一旦ストップし自販機で温かい飲み物を補給するだけの3分停車でも休みにはなる。(10:42)

090426joro1042

往路にも見つけていた対岸のこいのぼり。昨日は撮影する余裕はなかった。(11:03)

090426koi1103

小さなアップダウンを経て下呂温泉街に到着、橋を渡ってすぐのデイリーストア下呂森店で先行の3人と合流できた。
ここでお昼にしているというので、おろしそばを買って食べる。(11:27-50)そしてここでも眠眠打破を追加。

次の舞台峠へは往路とは違い長い登りになる。ここでも頂上付近では7km/h台まで落とすスローペース。
降りたところの道の駅加子母、昨日の竹よしに寄る余裕はなくそのまま通り過ぎた。

次は塞の神トンネルへの登り、ここも腰痛と相談しながら抑えて登る。ブラケットを持つ通常のポジションで腰位置がうまく決まれば痛みが出ずペースもそれなりに保てるので、遅れながらなんとか登り切れた。
下りでは再び眠気に襲われ直線区間で再び停止、持ってきた梅干しを5粒食べる。それでなんとか意識を戻して先に進んだ。
そこからもアップダウンは続いていくので、その間離れた先行に追いつく事はできない。

PC5のサークルK中津川千旦林店に到着したのは参加者の中で最後尾だったらしい(レシートチェックの買い物の順番でリザルトでは最後にはならなかったが)。先行の3人それに他の参加者と一緒になる。
さぁここまで来た。あと100キロでゴールだ。あとは大きなトラブルさえなければ問題なくゴールできる。
雨はもう上がっている。この先はもう降らないだろうが全員カッパを着たままスタートした。

▽ARIVEE
PC5地点の標高とゴール地点の標高を比べると300m以上あるのでそれだけ見れば下り基調、しかし途中現地点より200m近く上昇する峠もあるアップダウンが最後の難関。

アップダウンを少しこなして後、木曽川を渡って山道に入ると本コース最大の勾配13〜15%の激坂が待ち構えていた。往路でも通っているはずだが降りているだけだからあまり覚えていない。500キロ走った脚には堪える坂だ。インナーローで7km/hを切るくらいでじっくり登る。勾配が5%程度に落ち着いてきたらペースを上げて前に追いつく。
下りでは急がず体調回復に努める。なんとか眠気もおさまっている様だ。
GPSに組んであるシミュレーションからは数分の遅れで済んでいる。PC5からゴールまでの間に2回休憩を予定していたがそれを一つ飛ばしたのでその分進みが出た。

そしてほぼ中間地点のサークルK、往路でも寄ったところで最後の補給に。(17:40-55)
あと50キロ。前後のライトを点灯させて出発。
4人の隊列を組んで最後の峠を越える。今度こそ下り基調なのだが時折現れる”コブ”の上りが簡単には先に進めさせてくれない。 先頭は腹ポさんか水色KLEINさんが牽く。昨日の体調不良がウソの様にべりーさんはいつものように坂を軽やかに上がっていく。

「あと30キロ」「あと20キロ」 昨日朝走った道の記憶を呼び戻しながら、暗くなった道をあと少し、あと少しと走っていく。
豊田の街中に戻り、土手道に帰って来た。

そしてスタートした地点が見えてきた。スタッフが灯火をぐるぐる回しているのが見える。

20:35到着。

ブルベカードを提出し、一旦クルマに乗り込んでトイレに向かう。戻って来てから完走サイン。
PC5で一緒だった他の参加者も無事戻って来た。

疲れた。 でもみんな笑顔がこぼれている。何が楽しかった?楽しい事などさしてなかったはずなのに、疲れてクタクタなのに笑顔が並ぶ。互いの健闘を讃え合い、スタッフにお礼の言葉をかける。いつものブルベの完走風景がそこにあった。

▽エピローグ - Un epilogue
090426goal2035

「戻ってこれた」
という満足感がじわじわこみ上げてくる。距離よりもこの山岳コースと雨の中を走り切ったという感覚の方が強い。
しかし他の3人は600という距離自体が初めてだった。もっとそれを盛り上げてあげればよかったかなと後で思う。自分にとって600キロという距離が実感を伴って来たということなのだろうか。

スタート地点に立ってペダルを漕ぎ出せさえすれば、どこまででも行ける。それがわかりかけてきたような気がした。

それが、自転車のチカラ。

さあ行け!ママヤマ。僕を乗せてどこまでも、走れママヤマ。

 

【今回の走行】 平均:-E-(21.0)km/h,最高:60.5km/h,距離:610.15km, 消費:約16,000kcal
※CAT EYEのサイコンは時間が27時間を越えると平均速度表示がエラーになる為、括弧内に計算値を表記